北アメリカの古代美術
北アメリカは広大な土地の中に、大陸各地で異なる自然環境をかかえています。この地域差が文化の多様性を生み出す要因になっています。北アメリカで出土した道具や工芸品には、その地に適応した生活様式や美意識を見ることができます。ここでは、ミシシッピ川流域とその東側にあたる東部森林地域と、現在のアリゾナ州やニュー・メキシコ州にあたる南西部地域の文化について説明します。
東部森林地域
後氷期の気候変化でミシシッピ川以東は森林地域となり、この新しい環境に適応するようにして古期文化が成立します。古期文化ではバンナーストーンなどの磨製石器が発達しました。バンナーストーンとは、投槍器のフックやおもりの部分に取りつける道具です。粘板岩の縞目模様や左右対称の形が特徴で、単なる実用品を超えた美しさを感じさせます。交易で広まったためか、東部森林地域の広い範囲で見つかっています。
やがて高度な埋葬慣習を持つアデーナ文化やホープウェル文化が現れました。大きな土の墓(マウンド)が作られ、石製のパイプといった上等な副葬品が埋められました。ホープウェル文化の石パイプは、薄い板の上に動物の立体彫刻を載せた独特の造形で知られています(図版3)。ホープウェル文化の衰退後はミシシッピ文化が栄え、カホキアやマウンドウィルといった大型遺跡と人工基壇を残しました。正座姿やあぐら姿のユニークな彫刻も見つかっています(図版4)。
南西部地域
南西部地域では古くから農耕が営まれてきました。人々は定住村落を形成し、集合住居や祭祀建造物を造るようになります。土器の制作が始まる前、「かご」を容器として使っていた時期はバスケット・メーカー文化にあたります。これらのかごは植物の枝や繊維を編み上げるか巻き上げるかして作られたものです。繊細な模様は作り手の高い技量や洗練された美意識を思わせます。
バスケット・メーカー文化に代わってアナサジ文化が現れます。アナサジ文化の重要な遺跡としてメサ・ヴェルデとプエブロ・ボニートがあります。これらの遺構には「キーバ」と呼ばれる半地下式の建造物が残されています。キーバの規模は直径5〜20m、深さ3m程度で、天井に開いた孔から梯子で出入りしました。この特異な建造物は、氏族単位の成人式や農耕儀礼の場として利用されていたことがわかっています。
アナサジ文化でもう一つ重要なのが土器です。最も多いのが白の地に黒で幾何学文様を描く作例です(図版7)。太い帯状の区画を平行線、波形、斜格子など様々な文様で埋める、特徴的な絵付けが施されました。アナサジ文化末期には、黄色の地に赤・茶・黒で描く多彩色土器が作られました(図版8)。幾何学文様に加えて、人物、鳥、昆虫、花といったモチーフも描かれるようになりました。
モゴヨン文化はアナサジ文化と並んで古くから土器を生産していました。白地黒彩のミンブレス様式は、余白を十分に残した絵付けが特徴とされます。モゴヨン文化では土器を死者の顔の上に伏せて置く慣習があったらしく、土器の底によく見られる穴は埋葬用に開けたものと考えられています。モゴヨン文化の影響は南のメキシコにまで及び、メソアメリカの文化と融合しながら発展しました。メキシコのカサス・グランデスはモゴヨン系文化の代表的な遺跡です。
最後にホホカム文化を紹介しておきます。ホホカム文化はすぐれた石の加工技術を有していました。鉢の周りに装飾を施した石鉢や、動物の浮彫を施した石皿を残しています。しかし最終的には南のカサス・グランデスの影響圏に入り、ホホカム文化の独自性は失われることになりました。
作品データ
- バンナーストーン 古期文化後期 前2000~前1000年頃 アメリカ, インディアナ州ウェルズ郡出土 粘板岩 12.7×14.0cm アメリカ, ブラフトン, ゴードン・ハート・コレクション
- 男性像のパイプ アデーナ文化 前500年~紀元前後頃 アメリカ, オハイオ州アデーナ・マウンド出土 パイプ石 高さ20.0cm アメリカ, コロンバス, オハイオ歴史教会
- ビーバーのパイプ ホープウェル文化 前100~後200年頃 アメリカ, イリノイ州ベドフォード・マウンド出土 パイプ石, 淡水産真珠, 貝 4.5×11.6cm アメリカ, タルサ, ジルクリース博物館
- 座るネコ科の動物 ミシシッピ文化 1400~1500年頃 アメリカ, フロリダ州キー・マーコ出土 木 高さ15.1cm ワシントン, スミソニアン・インスティチューション, 国立自然史博物館
- 脚付き籠 アナサジ文化 1200年頃 アメリカ, ユタ州モキ・キャニオン出土 植物繊維 高さ57.0cm アメリカ, フィラデルフィア, ペンシルヴェニア大学博物館
- プエブロ・ボニート遺跡 アナサジ文化 900~1150年頃 アメリカ, ニュー・メキシコ州
- 幾何学文様の壺 アナサジ文化 1100~1200年頃 彩色土器 高さ43.0cm アメリカ, フィラデルフィア, ペンシルヴェニア大学博物館
- 花模様の壺 アナサジ文化 1400~1600年頃 彩色土器 高さ22.0cm アメリカ, フィラデルフィア, ペンシルヴェニア大学博物館
- 熊狩りの鉢 モゴヨン文化 ミンブレス様式 1000~1150年頃 アメリカ, ニュー・メキシコ州ギャラズ出土 彩色土器 口径17.0cm アメリカ, ミネアポリス, ミネソタ大学美術館
- 対面する人物の鉢 ホホカム文化 500~900年頃 石 高さ約12cm アメリカ, フェニックス, アリゾナ州立博物館
参考文献
- 青柳正規, 大貫良夫(編)『世界美術大全集 西洋編 第1巻 先史美術と中南米美術』小学館 1995






