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メソアメリカの古代美術

メソアメリカとは、メキシコの南半分、グァテマラ、ベリーズ、エルサルバドル、ホンジュラスの西部を含む地域を指します。メソアメリカの文化は、形成期 → 古典期 → 後古典期を経たのち、スペイン人の征服によって滅ぼされました。ここでは時代ではなく地域という補助線を用いてメソアメリカの文化を説明してみたいと思います。「沿岸低地帯」「オアハカ盆地」「メキシコ中央高原」「マヤ地域」に分けて見ていきましょう。

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沿岸低地帯

メキシコ湾沿岸低地帯でおこったオルメカ文明は、メソアメリカ最古の文明と言われています。オルメカの代表的な遺跡にサン・ロレンソ、ラ・ベンタ、トレス・サポテスがあり、そこでは支配者を模したとおぼしき巨大人頭石が複数見つかっています。顔や頭飾りには一つ一つ違いがあることから、作り手が個性の表現に腐心していたことがわかります。

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個性を再現する一方で、オルメカの人物像にはある程度様式化された特徴があります。四角い顔、吊り上がった目、幅広く短い鼻、両側が下がった口、そしてV字に割れた額は「オルメカ的顔立ち」と言うべきものです。ジャガーがうなっているような外観から「ジャガー人間」と形容されることもあります。メソアメリカでは古くからジャガー信仰があり、美術のモチーフとしてたびたび描かれました。活発な交易や強力な支配により、オルメカの文化は周辺地域にも伝わっていきました。遠く離れたメキシコ高原のトラティルコでもオルメカ的な工芸品が出土しています。

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オルメカの後に台頭したイサパでは、暦と文字が使われていたことがわかっています。イサパが栄えた紀元前後、メソアメリカでは20進法による長期暦が用いられるようになりました。長期暦とは基準となる暦元を決めてそこから日を数える方法で、現存する最も古い暦の記録は「7・16・3・2・13」、西暦に直すと前36年12月6日を示しています。当時の長期暦は20×13の260日暦と、20×18+5の365日暦が併用されていました。

さらに時代が下ると、エル・タヒンやセロ・デ・ラス・メサス、コツマルワッパが栄えます。エル・タヒンとセロ・デ・ラス・メサスはメキシコのベラクルス沿岸、コツマルワッパはグァテマラの太平洋側に位置する都市です。エル・タヒンでは球戯が盛んで、球戯後には生贄を捧げる儀式が行われていました。図版4は首をはねられた人身御供を描いた石碑です。首から吹き出る血を蛇に見立てて表現しています。

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オアハカ盆地

オアハカ盆地でおこった文化としては、サポテカ文化とミシュテカ文化をおさえておきましょう。

サポテカ文化の重要遺跡であるモンテ・アルバンでは、たくさんの塑像や石板が見つかっています。「踊る人」の石板(図版6)に描かれた人物は、戦いに敗れた捕虜だと言われています。恥部の渦巻き模様は、ペニスを切り取られて血が吹き出ている様子を表したものです。ところどころに彫られた文字は、捕虜の名前か出身地を記したものと考えられています。

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サポテカ文化に代わって発展したミシュテカ文化においても、モンテ・アルバンは文化の要衝として利用されており、金の装飾物やトルコ石の首飾りが出土しています。またミシュテカの王統譜や歴史を扱った絵文書も作成されました。モンテ・アルバンからメキシコ盆地にかけて広がるミシュテカ文化ですが、地方によってで異なる特色を持ち、ミシュテカ=アルタ(高地)、ミシュテカ=バハ(低地)、ミシュテカ=プエブラと区別されています。ミシュテカ=プエブラを代表する遺跡がチョルーラで、約300m四方の大規模なピラミッドが建てられました。

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メキシコ中央高原

メキシコ中央高原ではまず、テオティワカン文明がおこりました。テオティワカンは大都市でありながら、厳密な都市計画に基づいて整備されています。南北5kmに伸びる「死者の通り」を中心として、600のピラミッドと2000のアパート建築群が建てられました。図版10の「ケツァルコアトルの神殿」は政治センターとして利用されていた建造物です。タルー(傾斜壁)とその上のタブレーロ(垂直壁)からなる、テオティワカン独自の建築様式を見ることができます。

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当時最大の都市だったテオティワカンは、周辺地域に強い影響力を有していました。薄手のオレンジ色土器や三平脚の筒形土器、タルー=タブレーロ式建築といったテオティワカン的な遺物がメソアメリカ各地で見つかっています。テオティワカンの影響を色濃く受け継いだ都市として、マタカパン、コツマルワッパ、カミナルフユ、ティカルがあります。

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テオティワカンが衰退した後のメキシコ盆地では、ショチカルコ、カカシュトラ、トゥーラなどの都が栄えました。

ショチカルコは外敵の侵入を警戒した軍事的都市だったらしく、「羽毛の蛇の神殿」の石彫には、鎧をまとい盾や槍を手にした人物がいくつも描かれています。

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カカシュトラは、マヤ的な人物像とメキシコ高原特有の文字が混交した壁画で知られています。戦いをテーマとした絵が多い中、「赤の神殿」の壁画は神話的・寓話的な世界が描き出された珍しい作例です。

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トゥーラを中心に栄えたトルテカ文化は、ジャガーや鷲、死や血といった主題を好み、羽毛の蛇ケツァルコアトルと戦争神テスカトリポカを重要な神として信仰しました。図版14はトゥーラ遺跡の「ケツァルコアトルのピラミッド」です。頂上に立つ4体の戦士像と4本の四角の柱は、もとは梁を支えるものだったと考えられています。

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スペイン人による征服以前、最後に繁栄したのがアステカ帝国です。その都テノチティトランは湖に浮かぶ島で、20〜30万の人口を擁しており、3つの堤道で陸と結ばれていました。アステカの世界観は大神殿や石造記念物によく見られます。そのほか、加工が難しい水晶の骸骨、トルコ石のモザイク仮面、豪華な羽飾り、儀式暦を表した絵文書などが発見されています。アステカ帝国は1521年、コルテスの策謀によって滅亡しました。

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マヤ地域

古典期に栄華を迎えたマヤ文明でしたが、形成期にはすでにかなり都市化が進んでいたことがわかっています。オアハカのサポテカ文化と同じく、マヤ文明では文字が用いられていました。マヤ文字は2列を対に上から下へ読んでいきます。人間や動物の頭を文字にした頭字体、全身像で表す全身体、幾何学的・抽象的な形の幾何体という3つの字体がありますが、それぞれは同義で自由に書き換えることができます。

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マヤ文明の建築は石碑と祭壇を組み合わせるところに特徴がありますが、地方によって文化的相違が見られます。諸都市の遺跡としてティカル、パレンケ、コパン、ボナンパックを紹介します。

ティカルでは神殿ピラミッドに加え、細長い部屋を持つ建造物が立てられました。部屋にはブロック状の小石を漆喰で塗り固めた壁や擬似アーチの天井が置かれました。

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南西様式の典型であるパレンケは、パカル王の時代から急速に繁栄しました。二重勾配の屋根と、化粧漆喰の塑像が彫られた外壁が特徴です。

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南東様式のコパンでは丸彫りの石碑が多く見つかっています。これらの石碑は「18ジョグ(ジャガーとドッグの合成語)」あるいは「18兎」と呼ばれる王の時代に建てられました。

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ボナンパック遺跡で発見された壁画は、マヤの美術史に大きな衝撃をもたらしました。部屋を埋め尽くすリアルな絵は、戦いの前の儀式、戦いの場面、戦いの後の儀式を描いたものとされています。

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800年頃から南西地方の衰退が始まり、古典期は終わりに迎います。南部諸都市は放棄された一方で、北部のユカタン諸都市の勢いが衰えることはありませんでした。北部マヤの建築様式に、チェネス様式、リオベック様式、プウク様式があります。

チェネス様式は1階建ての低い正面が特徴です。大地の怪物をモチーフとしており、入り口部分が怪物の口になったユニークな外観をしています。

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リオベック様式の建築は平屋の建物の両側に高い塔を持ちます。ピラミッド然としたこの塔には急な角度の階段が取り付けられており、頂上に神殿のような建物が置かれています。昇れるような塔ではないことから、実際に利用する建物ではなく装飾物であったと考えられています。

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ウシュマル神殿はプウク様式の典型にして、マヤ建築の極致と言うべき建造物です。プウク様式では、軒蛇腹から上の壁は石のモザイクで装飾し、下部は無装飾にします。上部と下部の著しいコントラストというプウク様式の魅力は、ウシュマル神殿の「尼僧院」(図版26)や「総督の館」(図版27、28)にはっきりと見られます。

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後古典期にはチチェン・イツァがユカタン北部を支配しました。チチェン・イツァでは、プウク様式のマヤ的な建物とメキシコ的な建物が併存しています。さらに、トゥーラ遺跡によく見られるメキシコ的な彫刻もよく見つかっています。例として、膝を建てて横たわるチャクモールという像(図版31)や、ツォンパントリと呼ばれる骸骨の柱(図版32)があげられます。チチェン・イツァが遠く離れたメキシコ高原のトルテカ文化から影響を受けていたことは確かであり、「トルテカ=マヤ文化」として理解されています。

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作品データ

  1. 人頭石 形成期 オルメカ文化 前900~前600年頃 メキシコ, タバスコ州ラ・ベンタ出土 玄武岩 高さ241cm メキシコ, ビリャエルモサ, ラ・ベンタ野外博物館
  2. 頭の裂けた人物の儀式斧 形成期 オルメカ文化 前1200~前300年頃 メキシコ, タバスコ州ウィマンギリョ出土 岩 高さ23.0cm メキシコ, ビリャエルモサ, カルロス・ペリセール・カマラ人類学博物館
  3. 儀式棒 形成期 オルメカ文化 前900~前300年頃 メキシコ, タバスコ州オホシャル出土 岩 高さ25.5cm メキシコ, ビリャエルモサ, カルロス・ペリセール・カマラ人類学博物館
  4. 石碑 古典期 ベラクルス沿岸文化 300~900年頃 メキシコ, ベラクルス州, ベガ・デ・アパリシオ出土 高さ108cm メキシコ, ハラパ人類学博物館
  5. 仮面をつけた人物の香炉 形成期 サポテカ文化 250~700年頃 土器 高さ38.0cm メキシコ, オアハカ博物館
  6. 「踊る人」の石板 形成期 サポテカ文化 前500~前200年頃 メキシコ, オアハカ州モンテ・アルバン出土 170×30㎝ メキシコ, モンテ・アルバン博物館
  7. 胸飾り 後古典期 ミシュテカ文化 1200~1500年頃 メキシコ, オアハカ州モンテ・アルバン出土 金 高さ12.2cm メキシコ, オアハカ博物館
  8. 首飾り 後古典期 ミシュテカ文化 1200~1500年頃 メキシコ, オアハカ州モンテ・アルバン出土 金, 貝, トルコ石ほか 長さ約40cm メキシコ, オアハカ博物館
  9. テオティワカン遺跡 古典期 テオティワカン文化 150~650年頃 メキシコ, メキシコ州
  10. テオティワカン遺跡, ケツァルコアトルの神殿 古典期 テオティワカン文化 150~650年頃 メキシコ, メキシコ州
  11. 人物装飾の鉢 古典期 テオティワカン文化 300~650年頃 彩色土器 漆喰 高さ13.2cm アメリカ, サンフランシスコ美術館
  12. ショチカルコ遺跡, 羽毛の蛇のピラミッド(部分) 古典期後期~後古典期 ショチカルコ文化 700~900年頃 メキシコ, モレロス州
  13. カカシュトラ神殿壁画, 「赤い神殿」の壁画 古典期後期 700~900年頃 メキシコ, トラスカラ州
  14. トゥーラ遺跡のピラミッドB, 戦士像立柱 後古典期 トルテカ文化 900~1200年頃 石 高さ(戦士像)460cm メキシコ, イダルゴ州
  15. 頭蓋骨 後古典期 アステカ文化 1325~1521年頃 水晶 高さ14.8cm ロンドン, 大英博物館
  16. テスカトリポカのモザイク仮面 後古典期 アステカ文化 1325~1521年頃 骨, トルコ石, 褐炭ほか 高さ20.2cm ロンドン, 大英博物館
  17. 頭飾り 後古典期 アステカ文化 1325~1521年頃 羽, 金ほか 166×175cm ウィーン, 民族学博物館
  18. オーバンの絵文書(暦本) コロニアル期初期 アステカ文化 1500年頃 樹皮 彩色 (1ページ平均)約24×27cm パリ, 国立図書館
  19. 「96文字の石板」 古典期 マヤ文化 783年 メキシコ, チアパス州パレンケ出土 メキシコ, パレンケ博物館
  20. ティカル遺跡, 「北のアクロポリス」 古典期 マヤ文化 700年頃 グァテマラ, エル・ペテン県
  21. パレンケ遺跡 古典期 マヤ文化 700年頃 メキシコ, チアパス州
  22. コパン遺跡, 石碑H 古典期 マヤ文化 730年 高さ360cm ホンジュラス
  23. ボナンパック遺跡, 建物1号の壁画, 楽団 古典期 マヤ文化 790年頃 フレスコ メキシコ, チアパス州
  24. チカンナの神殿2号 古典期 マヤ文化 600~800年頃 メキシコ, カンペチェ州
  25. リオ・ベックの神殿B 古典期 マヤ文化 600~800年頃 メキシコ, カンペチェ州
  26. ウシュマル遺跡, 尼僧院 古典期 マヤ文化 800~900年頃 メキシコ, ユカタン州
  27. ウシュマル遺跡, 総督の館 古典期 マヤ文化 800~900年頃 長さ約100m メキシコ, ユカタン州
  28. ウシュマル遺跡, 総督の館, 入り口 古典期 マヤ文化 800~900年頃 メキシコ, ユカタン州
  29. チチェン・イツァ遺跡, カラコルとカスティリョのピラミッド 古典期後期~後古典期 マヤ文化 900~1250年頃 メキシコ, ユカタン州
  30. チチェン・イツァ遺跡, 戦士の神殿から見たカスティリョのピラミッド 古典期後期~後古典期 マヤ文化 900~1250年頃 高さ約30m メキシコ, ユカタン州
  31. チャクモール 後古典期 トルテカ=マヤ文化 900~1200年頃 メキシコ, ユカタン州チチェン・イツァ出土 石 高さ109cm メキシコ・シティ, 国立人類学博物館
  32. チチェン・イツァ遺跡, ツォンパントリ(骨の柱)壁面 後古典期 トルテカ=マヤ文化 900~1200年頃 石 浮彫りメキシコ, ユカタン州

参考文献

  • 青柳正規, 大貫良夫(編)『世界美術大全集 西洋編 第1巻 先史美術と中南米美術』小学館 1995