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中間領域の古代美術

「中間領域」は北のメソアメリカと南の中央アンデス地帯の間を指し、現在のパナマ、コロンビア、エクアドルにあたります。中間領域の文化は、メソアメリカや中央アンデスほど高度なレベルにはならなかったものの、それらと交流する中で独自の発展を遂げました。驚くべきことに、コロンビアのプエルト・オルミーガ、エクアドルのバルディビアでアメリカ大陸最古の土器が出土しており、この地の文化的先駆性を示す重要な証拠となっています。中間領域の文化はすぐれた土器・土偶と金属製品を残しており、ここでもそれらを中心に見ていこうと思います。

パナマの古代美術

古代パナマ人は「あらゆるものに生命力が宿り、そのエネルギーは特別な力を持った人が媒介・統御する」という独自の世界観を持っていました。共同体のリーダーやシャーマンはこの力を持つとされ、人間界と自然界の仲介役として崇められました。古代パナマの工芸品は、彼らが行う儀礼の道具や装身具として作られました。

古代パナマで美術品のモチーフとなったのは、蛇、鰐、蛙などの外界の生物たちです。陸と水中、木の上と木の下など、異なる空間を行き来する動物に価値が置かれました。シャーマンが重用されたのも、人間界と自然界を行き来する能力、外の世界という非日常的な場をコントロールする役割を期待されていたからです。男性が狩猟や漁労によって外界と関わりを持つ一方で、女性は生活の場である村落にとどまり農耕を担いましたが、美術品の図案に農耕的なモチーフは出てきません。

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コロンビアの古代美術

プエルト・オルミーガは、コロンビアの古代生活を伝える重要な遺跡です。カリブ海に面したこの貝塚からは、紀元前3000年の古さの土器が出土しており、これはアメリカ大陸最古の部類に属します。紀元前1000年頃から農耕村落が成立し、農業を基盤に各地方で独自の社会・文化が興隆します。サン・アグスティンもそのうちの一つです。

サン・アグスティンは、祭祀や儀礼を執り行う宗教的な場所でした。遺跡からは300以上の石彫と多数の墳墓が見つかっています。とくに興味深いのが丸彫りの像で、大きな頭、ずんぐりとした胴体、短い足が特徴で、ジャガーのような牙もよく見られます。身体のいたるところに装身具をつけており、手には棍棒や首級が握られています。頭や背中に小さな動物が乗っていることがありますが、これはシャーマンのかぶりものか、動物への変身を表しているものと解釈されています。

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コロンビアの古代美術としては金製品も注目に値します。コロンビアは西部や中部の山中に金の鉱脈があり、周辺の川床からも砂金が採取されていました。集めた金は坩堝で溶かされますが、銅との合金になることも多々ありました。合金が用いられた理由としては、融点を下げ加工しやすくする利点のほか、金が採れない・買えないというやむをえない事情もありました。

溶かした金を薄く引き延ばし、できあがった板に細工を施します。板に直接図案を描く方法、裏に型を置きのみたがねで文様を打ち出す方法のほか、粘土の型に金を流し込んで固める鋳蝋法ちゅうろうほうも用いられました。仕上げに表面の研磨や艶出しを行うこともありました。

各地方で金製品の特色に違いがあります。金の産地であったカリマでは、金の含有率が高い胸飾りや腕飾りが多く見つかっています。図版3は死者の埋葬に供したマスクです。耳や鼻にぶら下げた飾りは、風に揺れて音を出したり、陽光に反射して輝く効果があります。

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トリマは肥沃な土地で金がよく採れました。トリマ産の金は交易品として近隣地域に運ばれたと言います。金の含有率が高い胸飾りが主に作られ、翼を広げたようなタイプ(図版4)と、両手足を左右に開いたタイプ(図版5)があります。胴は扁平ですが、顔は立体的に造形されているのが特徴です。

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キンバヤ製品の高い写実性と美しい仕上げは、新大陸にやってきたスペイン人をも魅了しました。図版6のようなリアルな人物像は他の地域にはないものです。重量感あふれる姿ですが、実は中空の構造をしています。もとはポポロと呼ばれる石灰を入れるための容器として利用されていました。

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ムイスカの製品は金の含有率が低く、表面が粗く磨かれていないものが多いです。宗教的な聖地や建造物、埋葬に捧げることが第一で、表面の整形にはそれほど関心がなかったと思われます。図版7はトゥンホという人物を象った像です。

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金の入手が難しいタイロナでは、銅との合金を用いた精巧な作品が作られました。またモチーフとして燕尾を持つ鳥がよく描かれました。地上界と天上界の媒介役という共通点から、鳥をシャーマンになぞらえる意図があったようです。トランス状態に至ったシャーマンは鳥に変身し、天界へ飛翔すると信じられていました。

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エクアドルの古代文化

バルディビアは、先述したプエルト・オルミーガと並んで、アメリカ大陸最古の土器が出土した遺跡です。バルディビアの土器は丸底の碗や器壁が反った鉢が主流で、外側に刻線や削り取りで幾何学模様が描かれました。出土場所が住居や祭祀建造物であることから、日常的な煮炊きだけでなく儀礼の際も利用されていたことがわかります。祭祀の時に吸引する幻覚剤を入れておいたという説もあります。

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バルディビアでは土偶も作られました。サイズは小さく単純な形態をしています。長い髪、胸のふくらみなど女性的特徴を有した像が大半であり、豊穣祈願のために作られた可能性があります。他方、土偶の多くは住居のゴミ捨て場から部分的に欠けた形で出土しています。古代のまじないには、土偶を病人に見立て、症状の出ている箇所を打ち壊すというものがあり、バルディビアの土偶もそうした病気治療の道具だったのかもしれません。

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土偶の伝統はマチャリージャ文化やチョレーラ文化に引き継がれました。マチャリージャの土偶はコーヒー豆のような目を持ち、顔の両脇には小さな孔がいくつもあけられています。胴部には赤色の線で幾何学的な文様が描かれました。

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チョレーラ文化において土器・土偶の造形は格段に洗練されました。チョレーラの土偶は、瞑想しているかのように目を閉じ、衣服や入れ墨のような文様が入った胴部を持ちます(図版13)。頭部が極端に大きくヘルメットのようですが、これが結い上げた髪なのか、ターバン状のかぶりものなのかはわかりません。土器についても焼成や仕上げの技術が進歩し、器形や表現もバリエーション豊かになりました(図版14)。

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バルディビア → マチャリージャ → チョレーラの系譜は、エクアドル文化の形成期を築きました。しかしその後は統一的な文化が生まれず、ラ・トリッタ、ハマ・コアケ、バイーアなど各地方の文化が並び立つ時代に入ります。これらの都市は祭祀センターとして機能し、南北の諸文化と交易によって結ばれていました。

ラ・トリッタはすぐれた金属製品を生み出しました。北方のコロンビアから冶金やきん技術が伝わっていた可能性があり、装飾品には金とプラチナの合金まで含まれています。プラチナの加工は難しく、ヨーロッパでも18世紀にならないと成功しなかったことをかんがみると、驚くべき技術水準です。しかしこのプラチナは熱した金にはめ込んだだけで、プラチナを溶かす技術は持っていなかったとする見方もあります。

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ハマ・コアケの土偶や象形土器は、服装や所持品、ポージングが多様性に富んでいます。こうした要素によって人物の職能や階級を表しました。たとえば図版16は、槍を構える姿から戦士あるいは狩人だとわかります。たくさんの装飾品を身につけた図版17の男は、地位の高い人物に違いありません。左手のは土を掘り返す棒、右手のは種をつめた袋であり、農耕儀礼にかかわる場面だと解釈されています。立像に限らず、図版18のような座像も作られました。

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ハマ・コアケに比べると、バイーアの土偶は動きがありません。しかし衣服としてさまざまな文様が描かれており、当時の衣装・装束を探る手がかりとなっています。また赤、黒、白、黄、緑と多色の顔料を用いて土器の表面を塗り分けています。

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15世紀半ば、エクアドルはインカ帝国によって征服されましたが、土着の文化を破壊するような統治は行われませんでした。各地方の文化が温存された一方で、インカの影響の下に作られた建造物や工芸品が見つかっています。最終的にはスペイン人の侵略を受け、古代文化の中継地としての役目をを終えました。

作品データ

  1. 神獣文のヘルメット コクレー文化 700年頃 パナマ, コクレー州シティオ・コンテ出土 金 径21.0cm アメリカ, ケンブリッジ, ハーヴァード大学ピーボディ考古学民族学博物館
  2. サン・アグスティン遺跡, 棍棒と首級を持つ石像 紀元前後~800年頃 コロンビア,ウイラ州
  3. 顔面模様のマスク カリマ文化 前500~1000年頃 金 高さ28.0cm サンタ・フェ・デ・ボゴタ, 黄金博物館
  4. 人面動物形胸飾り トリマ文化 600~1000年頃 コロンビア, トリマ(?)出土 金 高さ58.8cm サンタ・フェ・デ・ボゴタ, 黄金博物館
  5. 人物像の胸飾り トリマ文化 600~1000年頃 コロンビア, トリマ州チャパラル出土 金 高さ11.3cm サンタ・フェ・デ・ボゴタ, 黄金博物館
  6. 男性形容器(ポポロ) キンバヤ文化 300~1000年頃 コロンビア, カウカ谷(?)出土 金 高さ26.5cm マドリード, アメリカ博物館
  7. 奉納用人物像(トゥンホ) ムイスカ文化 600~1600年頃 金 高さ11.7cm サンタ・フェ・デ・ボゴタ, 黄金博物館
  8. 鳶=人間のペンダント タイロナ文化 700~1600年頃 コロンビア, マグダレーナ州出土 金 高さ12.6cm サンタ・フェ・デ・ボゴタ, 黄金博物館
  9. 座る動物形壺 バルディビア文化 前3000~前1200年頃 エクアドル, マナビー州エロイ・アルファーロ出土 土器 高さ15.3cm エクアドル, グァヤキル, エクアドル中央銀行博物館
  10. 顔面文様の鉢 バルディビア文化 前3000~前1200年頃 土器 口径18.6cm エクアドル, グァヤキル, パシフィコ銀行考古博物館
  11. 女性像 バルディビア文化 前3000~前1200年頃 エクアドル, グァヤス州出土 彩色土偶 高さ(左)9.8cm (右)9.0cm キト, エクアドル中央銀行博物館
  12. 女性像 マチャリージャ文化 前1500~前1200年頃 エクアドル, マナビー州サン・イシドロ出土 彩色土偶 高さ25.5cm エクアドル, グァヤキル, エクアドル中央銀行博物館
  13. 女性像 チョレーラ文化 前1200~前500年頃 エクアドル, マナビー州ラス・チャクラス出土 彩色土偶 高さ34.5cm エクアドル, グァヤキル, パシフィコ銀行考古博物館
  14. 病気の男の容器 チョレーラ文化 前1200~前500年頃 エクアドル, マナビー州カルデロン出土 彩色土器 高さ24.5cm エクアドル, グァヤキル, パシフィコ銀行考古博物館
  15. 太陽神の飾り板 ラ・トリッタ文化 前600~後700年頃 エクアドル, モンゴヤ出土 金 高さ48.0cm キト, エクアドル中央銀行博物館
  16. 仮面の戦士形容器 ハマ・コアケ文化 前300~後700年頃 エクアドル, マナビー州サン・イシドロ出土(?)彩色土器 高さ18.9cm キト, エクアドル中央銀行博物館
  17. 種蒔きの儀式姿の男 ハマ・コアケ文化 前300~後700年頃 エクアドル, マナビー州サン・イシドロ出土 彩色土器 高さ31.0cm エクアドル, グァヤキル, エクアドル中央銀行博物館
  18. 座る男 ハマ・コアケ文化 前300~後700年頃 エクアドル, マナビー州サン・イシドロ出土 彩色土器 高さ(左)17.4cm (右)17.0cm エクアドル, グァヤキル, エクアドル中央銀行博物館
  19. 座る女 バイーア文化 前300~後400年頃 エクアドル, マナビー州ロス・エステーロス出土 彩色土偶 高さ63.5cm キト, エクアドル中央銀行博物館

参考文献

  • 青柳正規, 大貫良夫(編)『世界美術大全集 西洋編 第1巻 先史美術と中南米美術』小学館 1995